『小惑星探査機「はやぶさ」の超技術』読了。【☆☆☆☆☆】
いままで読んでいた「はやぶさ」本は総論的な本でしたが、この本は「はやぶさ」の技術担当者によって、各論が書かれています。特にNECの技術者が書いた文章もあり、非常に興味深い。一般的な技術論文とは異なるけど、論文を素人にも読めるような雰囲気にした本。個人的には非常に面白く楽しい。
まず最初は「軌道の魔術師」こと川口先生の飛行計画について。いままでもいろいろ読んできたけれど、知らなかった事柄もたくさん書かれています。それにしても川口先生の文章はわかりやすい。
その次はイオンエンジンについて。開発を主導した國中先生、生産を含めた総合的に作り上げたNECの担当者も執筆されています。
メカニズムも詳しく書かれており、細かなところまでの理解はできないものもありましたが雰囲気は楽しめました。また起死回生のクロス運転についても詳細が書かれています。クロス運転をすればスグに動いた、ってわけではないことがよくわかります。またクロス運転を可能にした小さなコンデンサの写真も。実際には使われなかった冗長性(安全対策)についても書かれています。
他にも「はやぶさ」の位置制御や姿勢制御、科学観測機器、サンプラーホーン、リエントリーカプセルについても、細かく書かれていてその開発や運用の苦闘の様子が感じ取れます。ラストショットを撮る際の詳細も語られていて、写真を撮ること、それを地球に送ることがかなり難しいことだったったこともわかりました。
そのなかで印象に残った文章に「どれだけ地上試験でモノを壊したかによって、想像力の範囲が決まる」という言葉がありました。今、このタイミングでこの文章を読むと非常に強く印象に残ります。想定外という言葉の怖さが身に沁みます。想定される故障から仕様を決定するということ。これがエンジニアとしての醍醐味であり、一番の怖さだと思います。
但し、人間は失敗をしなければ進化はありません。
その失敗を乗り越え、失敗を繰り返さないことが、これからの人間の知恵・技術が試されることなのだと思うのです。
最後にこの本についてですが、非常に専門的(マニアック)な方向に行っているので、「はやぶさ」の感動する話は好きだけど、技術的なことが興味が無い人は「?マーク」が出てしまってオススメができないかも。でも、しっかりした「まとめ」になっているので、表層をサラッと読もうという方にも良いかと思います。
「はやぶさ」バブルで扇情的に煽って内容が無い本が多いなか、誠実に丁寧に作られていて好感が持てました。
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