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Posted by watari - 2012.09.15,Sat

『太平洋のレアアース泥が日本を救う』読了。【☆☆☆☆☆】



 


太平洋のレアアース泥を東大にて研究されている加藤泰浩氏が書かれた本。

研究者の書かれた本は、一般的には自分の成果に対して冷静で、結果的に眠たい本が多いです。ですが、この本はかなり熱い。レアアースに関して、なにかしら興味のある方は一読の価値があるかと思います。

レアアース泥とはレアアースを含んだ海底にある泥のこと。
レアアースとレアメタルの区別も付かなかった素人に「理解されたい」という強い意思にて書かれており、たしかにわかりやすい。

専門家の本で「理解されたい」という風に書かれた本というのはなかなか珍しい。そのうえ研究者が何を思って、研究されているのか?ということまで踏み込まれていて、それも非常に楽しい。


この本が書かれた経緯としては、中国と尖閣問題が大騒ぎし始めたは2010年9月。
中国船が日本の巡視船にぶつかってきたときのこと。

中国人船長の無条件で釈放しないとレアアースの通関手続きが受理されなくなると脅しをかけてきたうえで、実際に滞るという事態がありました。レアアースは「ハイテク産業のビタミン」というくらい様々なところに使われています。この資源が手に入らないとハイテク産業は、モノを作れなくなってしまうのです。

実は、このことは私にも直接的な影響がありました。中国を行き来する荷物が届くのが遅れたりしていました。他部署では、まともにレアアースを使っており、その入手性に対して大騒ぎになったこともありました。中小企業でもその騒ぎだったわけで、日本の製造業の大問題となったのです。

そのとき、私はレアアースは中国しか取れないものだと思い込んでいました。
だから、こんな事態になってしまうんだろうと。ですが、この本を読んでみて実情は違うということが理解できました。

本来、レアアース鉱床は世界中に分布しているそうです。
そんななかで、中国はレアアースの安値競争を仕掛け、他国の鉱山を不採算として閉鎖に追い込み、その後、独占となったところで値段を釣り上げるという歴史的な経緯があったとのこと。

なぜ中国は安値競争が出来たのか?ということが疑問になります。
単純に人件費だけの問題ではなく、中国独特の問題があったと書かれています。簡単にいえば環境問題を無視して自国民を犠牲にして、レアアースの需要を担っているということ。

レアアースが集まる鉱床は、レアアースと同時に放射性物質も濃集するという特性があり、レアアースを採掘する場合は、放射性物質の処理が重要となる、とのこと。
本来であれば、放射性物質の処理のコストの掛けるべきところを、それをやらずに採掘しているから安値攻勢を掛けることができた、というわけです。なるほどです。

陸上にあるレアアース鉱区に関しては、その放射性物質の処理に問題があるけれど、海底にあるレアアース泥はその集積方法の違いから影響は少ないとのこと。そのため、掘り出すことにコストが掛かっても、採掘することの全体としては影響が少ないとのことです。

日本も外的問題に産業が影響されることが多々ありますが、その要因が少なくなることに越したことはない。レアアース泥がそのひとつの問題をクリアーにする可能性があるということがわかりました。

ちなみに本書には、実用化までに目標として5年!!
正直、こんな早くできるの?という気もしてしまいましたが、この熱さを持った方であれば実現してしまうかも?と思わせる何かがありました。

あとがきにはこのように書かれています。
「未来の世代のために何ができるか、子供たちに何が遺してあげられるのか、それを真剣に考えて全力を尽くすべきときが来たと思います。(中略)子供たちに明るい未来があることを見せてあげたいと心から願っています」とのこと。
期待しています。


他にもいろいろ覚えておきたいことがあったため自分用の箇条書きにてメモを残しておきます。

レアアースの定義
一般的にはランタノイド15元素である原子番号57~71番まで(ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)
ルテチウム(Lu))、それにスカンジウム(Sc)とイットリウム(Y)を加えた17元素をレアースと定義される。

・レアアースとレアメタルの定義は異なる。
レアメタルは日本で作られた造語で、日本の経済産業省が指定した31種類の元素。
世界的には中国くらいでしか通用しない。

・レアアースには軽レアアースと重レアアースがある。
ランタンからユウロピウムが軽レアアース。ガドリニウムからルテチウムまでを重レアアースとしている。重レアアースはより希少であり、産業的にも重要となる。

・レアアースは代替できない
レアアースの量を減らすことは技術的に可能かもしれないが、無くしたり代替することは出来ない。無くすということは、根本的に考え方が間違っている。レアアースの特性は原子が持つ特異な電子配置によるもの。昨今、日本の技術力ならば、使わずに高機能な製品を作れる、などと言われているが、それはありえない方向である、とのこと。

・海底のレアアースは陸上の800倍以上
陸上と海底では、レアアースの濃集するメカニズムが異なる。

レ・アアース泥開発の3つの壁
①実際に4000mの海底から引き上げられるか?
②海洋環境、海底生物に深刻な影響を与えないか?
③経済的な採算性はあるのか?
本書では、いずれも問題ないと考えているとのこと。
同じ海底資源のメタンハイドレートは、地球温暖化の加速の懸念あり。

・日本の南鳥島周辺にはレアアース泥があると推定される。
この周囲を開発することが、レアアースの市場価格の形勢に大きな影響を与えるとのこと。あと2年で調査をして、5年で生産したいとのこと。

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